ビール好きの間では言わずと知れたフリーマガジン「TRANSPORTER」の創立者 田嶋伸浩氏。マガジンとは逆に謎に包まれた田嶋氏の実体に迫るべく、ご本人にインタビューを依頼した。そもそもビールに関わる仕事をする前は何をやっていたのか?そして何故ここまでビールを愛し、メディア、イベント、店舗コンサルタントなど、様々なビアシーンの展開を進めてきたのだろうか。

 

アパレルの経験を持ってビールシーンをスタイリッシュに盛り上げる


田嶋氏が手がけるファッションブランド「arias」

 

実のところ、田嶋氏の本業はアパレル業界だ。

自らのブランドを立ち上げ、スタイリストとしても長く活躍されているやり手のビジネスマンという一面もある。更にその前には、建築設計士の職にも就いていたという職歴の守備範囲の広さ。

また、アパレル業界で得たの人脈の広がりが、今のクラフトビールに関する活動にも繋がっていると田嶋氏は話す。もともと、現在田嶋氏が携わっている飲食店向けのクラフトビールコンサルタントを始めたきっかけも、某アパレル会社がイベントでケータリングを出す際に、おすすめのビールはどれか相談されたのがきっかけだ。

 

カナダ留学で培われたコミュニティと価値観

写真中央ブルーのウェアの青年がカナダ留学時代の田嶋氏

 

まだ田嶋氏がクラフトビールに出会う前の建築業に就いていた当時、このままでいいのかというふとした焦燥感と、プロスノーボーダーになりたいという新たな夢を持ち、「今考えると無茶苦茶過ぎて笑える」と田嶋氏本人が言いながらも、単身カナダに留学することを決めた。

そこでは、日本とは違ったコミュニケーション文化に気づかされたと言う。「無駄に人を傷つけたくないっていう思いもあって、日本ではあまり自分の意見は言わないようにしていたかな。それが、向こうでは発言しないと全く相手にされない。逆に日本に戻ってきてからは、向こうにいた頃の様に自分の意見ばかりを言っても上手くいかない。そんな経験の中で、ちょうど良い中間のコミュニケーション能力を身に付けたんだと思う。」と田嶋氏は話す。またカナダでできたコミュニティが、彼が日本で仕事をする上でも生きている。現在好きな事を仕事にし、クラフトビールシーンで活躍する田嶋氏にとって、カナダ留学は大きなターニングポイントになったのだ。

 

伝統にリスペクトを忘れないカウンターカルチャー

そして、クラフトビールに出会ったのもカナダ留学の時だ。留学中に一緒に過ごした仲間たちと、気が付けば自然とクラフトビールで乾杯をしていた。カナダでは当たり前のように街に溢れるクラフトビール。

カナダから始まったクラフトビールへの興味はいつしかポートランドやヨーロッパ、ビールで盛り上がる世界各地の伝統的な醸造方法から学ぶ旅をするようになっていった。それらを自分たちの好みやセンスに合わせて新たなビールへと進化させていたのだ。

“ビール=クラフトビール”という概念を日本でも浸透させたいと田嶋氏は言う。海外にあるようなクラフトビール文化を日本でも広め、自由にお洒落に、そして楽しくビールを飲むために、日本に今あるビールのイメージを上書きしたいと考えたのだそう。

 

ビール好きな仲間との趣味から始まったBEER BRAIN

そんな田嶋氏は、フリーマガジン「TRANSPORTER」を手がける他にも移動式ビアバー「BEER BRAIN」を創り上げた“Tokyo Beer Boyz”の1人でもある。

はじめはビール好きな仲間たちと、自分たちが楽しむために全てをDIYで作り上げたというタイニーハウス型の「BEER BRAIN」。創る上でとにかくこだわったのは、お洒落かどうか。店内はタップからメニューボードから全てオリジナルで、こだわりのポイントが多数。

木材の加工や組み立てももちろん、小さな店舗ながら空調設備や2つの窓など、快適に過ごせるよう工夫された細かい部分も全て手作りで作られている。これが趣味の延長で作ったというから驚きだ。

「TRANSPORTERもBEER BRAINも、とにかく日本でのビールのイメージを変えたかったからなんだよね。」と、アパレル業でも活躍する田嶋氏ならではのビール文化の構築である。

 

これからの国内ビールシーンの展開は?

日本のクラフトビールシーンで奔走する田嶋氏が今、そしてこれから目指すことは何なのだろうか?

ご本人曰く、「まだまだ、日本でのビールのイメージを変えていきたい。たくさんの人にクラフトビールの存在を知ってもらって楽しんでほしいよね。アメリカとか他の国では、ビールはイケてる飲み物。日本でもそれが当たり前になるように認識を変えていきたいね。」とのこと。

田嶋氏は現在、“THE GOOD BEER HUNTER TOKYO”というユニットを立ち上げ、イベントやクラフトビールを導入したいと考えている店舗へ、セレクト・バイイング・ディレクションという役割で介入もしている。前述にもあるように、これもきっかけは彼の広い人脈の中で、偶然にも相談を持ちかけられ始まった取り組み。また、アパレル業界でクラフトビールのシーンを展開することで“ビール=お洒落な飲み物”のイメージが定着することも狙っていると話す。

さらに他にも、毎年開催される東京のビアシーンを盛り上げるイベント「Tokyo Beer Week」についても、運営の中核として関わっている。

田嶋氏は今、利益よりもクラフトビールシーンがどんどん街角のいたるところに増えていくことに面白さを感じ、そのためにたくさんの人たちに対しクラフトビールへの入口を開拓している最中とのこと。

最後に田嶋氏は、どうしてそこまでビールに惚れ込んでしまったのかと投げかけた質問に、「なんだかんだ、ビールがあったから今の自分があるからね。」と教えてくれた。センスと企画アイディアが溢れる彼のこれからの活躍に、益々期待せずにはいられない。