BEERISTA.TOKYOの特集第一弾「菌」。ビールの菌といえば他でもない、「酵母」のことですが、今回、その特集を組んだ時にまずはじめに頭に浮かんだのは三重県の伊勢角屋麦酒にてお花の酵母”花酵母”をつかったビールづくりに取り組む金澤春香さん。この方をおいて他にはいませんでした。 今回の特集の中で前後編、2回にわたるこのインタビューを通じて、そのわけが少しでも伝わったら幸いです。

 

伊勢角屋麦酒 金澤

 

伊勢角屋麦酒

有名な伊勢神宮の外宮の入り口から車で 10 分ほどのところに位置する老舗のお餅屋さん。お餅屋の他に味噌や醤油も造る蔵元でもあります。お餅屋としての創業は 1575 年! ビール醸造は 1997 年から開始。『伊勢から世界へ』『世界のビールファンを唸らせる』といった合言葉に、2000 年以降、様々な国際大会でも数々の賞を受賞している、日本でも有数の”小さくて強い”ブルワリー。

 

最初から醸造志望でもなかった、ビールはもともと苦手だった

ーーそもそもですが、金澤さんのブルワーになったきっかけについて教えて下さい。

金澤さん(以下、敬称略) 実はもともと管理栄養士になりたかったんですよね。

栄養系の勉強ができる大学の高校三年の夏にオープンキャンパス行ってて、たまたま農大の栄養科学科の見学した後に、隣の部屋で醸造科学科の展示を見学ができて。

ふらーと入ったら微生物を顕微鏡で見せてもらったり、味噌や醤油の作り方学べてっていうのを見て、もともと食品好きだったけど、発酵食品は中でも好きだなーってなっておもしろうそうってなって志望をチェンジしました。

大学入ってからのいろんな授業の中でも特に面白かったのはお酒の授業。清酒学、麹学、ビール学、ワイン学・・・、一番勉強に熱も入って、お酒系の研究室に行こうと決めたんです。お酒系の研究室だったので飲む機会も多かったけれど、実はもともとビールが苦手だったんです(笑)。

ーー大学生の頃は、そういう方も多いですが、農大の学生にしては珍しい印象*ですね(笑)。他のお酒は大丈夫だったんですか?ビールに惹かれたきっかけは?

 金澤 日本酒系の研究室だったので、アルコール類は全般的によく飲んでいました。その中でたまたまベルギービールを飲む機会に恵まれて。

初めて飲んだベルギービールはデュベルでした。

「もう、なんだこれ!」って思いましたね。

キレ、のどごしがメインの自分が苦手ないわゆる日本人が想像するようなビール(ピルスナー)とゴールデンエールって、同じような色をしているのに、キレも強くなく、このふくよかな味わいのビールはなんだ!と。

そこでベルギービールに開眼しましたね。それからかなりいろんな種類を飲んで。

そうやって飲んでいるうちに、あ、日本でもクラフトビールって作ってるところあるじゃん、となりました。それこそ、前職でつくっていたよなよなエール**とか。学生の財布でも買えるものは限られてたけれど(笑)。

そこから大学では醸造の勉強もしているし、自然とビールの醸造家(ブルワー)になりたいなとなりました。

*実は筆者も東京農大出身者

**金澤さんの前職はヤッホーブルーイングのブルワー

ーーじゃあ、具体的には研究室入ってからブルワー志望に?

金澤 そう、もともと日本酒系の研究室なんで、清酒酵母の研究していて日本酒業界にも興味がありました。

でも業界の先輩ともお話しするうちに、日本酒業界はほとんど農大出身者。でも、ビール業界は農大出身で花酵母使って活躍している人はいないということがわかりました。

ーーそのときから研究では花酵母をつかっていたのですか?

金澤 はい、花酵母を単離*して培養**して、代々研究しているの研究室だったので、先生にきいても、ビールで農大花酵母使った人はいないと聞いて、あ、これは私がやるしかないと(ニヤリ)。

そこからはもう、ブルワー一直線です。

*単離:この場合は 対照となる花から固有の酵母のみを取り出すこと

**培養:この場合の花酵母を含む菌や細胞を人工的に生育・増殖させること

直談判で玉砕する就職活動

ーークラフトビール業界で就活って、いろんな方に聞くと結構直談判が多いと聞きますけど金澤さんはどうされたんですか?

金澤 私も直談判派でしたね(笑)。もともとは一般的な就活、合同説明会とか行ってたんですが、あんまり自分のやりたいこととちがったので、スパッとやめて。そこから地ビール協会*のボランティアを始めました。

そこからイベントを手伝ったりしてクラフトビールメーカーの方と知り合う機会をもらったら、もう、直談判ですよ。でも「募集してない、募集してない、募集してない・・・」、他の先輩つながりとかでも紹介してもらったけど、やっぱり誰かがやめないと募集してないというのがあって。

そんなとき、ヤッホーブルーイングが新卒を募集していたんです。

*日本地ビール協会:http://www.beertaster.org/

ーーなるほど。そこでヤッホーブルーイングとの出会いがあったんですね。ヤッホーブルーイングにいるころからゆくゆく独立したいと言っていると聞きましたが、花酵母でのビールを出したいとおいう思いがあったからこそですか?

金澤 そうなんです。花酵母をつかったビールを世に出したいと学生ながらに思っていた身としては、ヤッホーブルーイングほどの大きなクラフトビールメーカーだと難しいかなーとは思っていました。だから、ゆくゆく、自分でブルワリーを持って花酵母をつかったビールをつくりたいというのが夢でした。

でもその前にまずはブルワーになるということが一つの大きな目標だったので、迷わず入社しました。結果的に、オリジナリティのある酵母を使ってビールをつくりたいと思っていた伊勢角屋麦酒に転職し、花酵母をつかった醸造もここで実現できてるので、その夢の方向性もまた少し変わってきてはいるんですが。

お花からとりだされた酵母の使い手になりたい

ーーなるほど。そもそも花酵母についてもう少し詳しく聞いてもいいですか?

金澤 花酵母は農大で伝統的に継代している酵母で、中田先生*という今退官された方がずっと研究されてきた酵母で。私が在学中は中田先生もいて、その頃は清酒蔵でしかつかってなかったのと、中田先生が認定しないと使えなかったのですが、現在の数岡先生になってから新しく蔵募集があったので、ここでも使えるようになりました。

*中田久保(ナカタヒサヤス)氏:元東京農業大学酒類学研究室教授、花酵母の生みの親

ーー種類もお花の種類によっていっぱいあるんですか?

金澤 はい。うちで一番最初にリリースしたはなきんせぞんにつかったのはリンゴの花酵母なんですが、花酵母研究会というところでいっぱい発表されていて、一昨年の 11 月くらい、ビアフェスシーズンが終わって、ちょっと時間ができたってときに、大学の先生にご協力をいただきながら予備実験、ちゃんとビールを作れるかっていう実験をして4 月に花酵母研究会に正式に入会が決まり、花酵母を製品につかうことが決まって、 7 月に仕込んで 2015 年 8 月にリリースでした。30 何株の中から一番セゾンぽく仕込んでくれそうなリンゴの花酵母を採用しました。

ーー その後、2015 年秋に日々草の花酵母を使った「はなきんるーじゅ」、 2016 年 2 月にミカンの花酵母を使った「はなきんぶろんど」と次々にリリースされていますが、そもそも、花酵母って、お花についている酵母を培養してとりだしているものなんですよね? 私もそれぞれ飲みましたがそれでこんなにも違いがでるのが面白くて。種類分けとかってどうなっているんですか?

金澤 それぞれのお花によって結構違うけれど、大まかに 6 タイプに分類できます。

でもその 6 タイプも清酒基準の分類なんです。ビール基準ではまだ花酵母を使ってビールをつくっているのが私だけなので、そこまで追いついていません。

日本酒でいうところの吟醸香、カプロン酸エチルと酢酸イソアミルという主な吟醸香二つがあって、どちらかが多い種類と、どちらもバランスいいタイプと、あと、日本酒の大事な基準でリンゴ酸を多く作るか作らないかというのがあって、その如何によって 6 タイプに分かれるんです。

ーー「はなきんせぞん」のときにいただいたリリースでも、リンゴの花酵母を使用することで香りや味わいを引き立てるとありましたよね。

金澤 そうなんです。リンゴの花酵母の上質でフレッシュな酸味と、出て来るエステル香がそこまで華やかすぎないというところでこのときはリンゴを選んだんです。酵母によってはもっとバナナのような香りをボーンと出す子もいれば、もっと酸味がきつくなる子(酵母)もいれば、もっと洋梨のような香りになる子もいれば、って感じでフラスコレベルの実験でかなりのキャラクターの違いが見られたので、あのときはセゾンぽいという部分を大事にリンゴの花酵母を選びました。でも、その組み合わせってやはり絶妙で、難しいんです。もっともっとたくさんの種類を実際にビールでつくってみて、花酵母の使い手になりたいんですよね。

酵母のことを「子」と呼ぶあたりがなみなみならぬ酵母への愛を感じます(結構微生物系の人にはこういう人多いかも)よね。こんな風に一つ一つの微生物のキャラクターを観察や実験で理解していく様子を話す金澤さんを見ていると、ビールづくりはあらためて生命のチカラを借りているということを実感します。いつぞや、金澤さんの先輩でもあるブルワーの方にお話をお伺いした時に、「ビールは、麦芽とホップと酵母と水、そして”時間”が造るのだ」と言われたことを思い出し、その時間の中で、生命が活動し、できるのがビールなのだとあらためて感じます。そうやって菌のチカラ、酵母のチカラに思いを馳せながら飲む今夜のビールはもしかするといつもより格別かもしれません。後編では、さらに花酵母についてじっくりお伺いしつつ、金澤さんの今後の展望についてもお伺いしていきます。

後編へつづく