「菌」特集最初の記事で配信中の伊勢角屋麦酒にてお花の酵母”花酵母”をつかったビールづくりに取り組む金澤春香さんのインタビュー。前編では、金澤さんが筋金入りの花酵母マニアであることがたーっぷりと伝わったかと思います。後編でも、さらに続々と出しているはなきんシリーズのラインナップをご紹介いただきながら、酵母愛がさらに炸裂しますっ!!

ひと坪ほどの実験室は金澤さんの城

ーー前編の最後では、第一弾で出したリンゴの花酵母を使用した「はなきんせぞん」についてお伺いしましたが、基本的に、つくりたいスタイルがあって、それに合わせてどの花酵母にするか選んでいくのですか?

金澤 その時々によって、まちまちかもしれません。例えば、第一弾でだした「はなきんせぞん」では夏の時期に飲みたくなるようなセゾンを造りたいと思って一番それに適していそうなリンゴの花酵母を使用しましたが、その後に出した「はなきんるーじゅ」はスタイルにとらわれずに、ワイン的なフルーツビールを造りたくてニチニチ草の花酵母を使いました。

「はなきんぶろんど」や「はなきんさくら」のときには、この花酵母を使ってビールを仕込みたいっていうところからスタイルを検討しました(「はなきんぶろんど」は蜜柑の花酵母、「はなきんさくら」は桜の花酵母を使用)。

”母の日”や”父の日”など、飲んでもらいたいシーンから花酵母やスタイルを検討していく場合もあります(母の日には「はなきんかーねーしょん」、父の日には「はなきんびたー」を発売)。

こうして色々とリリースしたので、それぞれ飲んでいただくと酵母の特徴も感じられて面白いと思うんですよね。

花そのものを使うのと違って、リンゴの花だからといって、リンゴの蜜の甘~い香りがするとは限らず、その花酵母を使って造ったビールからはスパイスやハーブ、柑橘の香りも感じられたり、逆に、つるばらの花酵母を使った「はなきんびたー」からはリンゴ様のフルーティな香りが感じられたりと特徴も様々。蜜柑の花酵母のように、ビールからもみかん様の柑橘香がしっかりと香ってくるものもあります。

ゆくゆくはレシピは同じで酵母違いのビールをつくりたい

ーーなるほど、面白いですね。最近、ビールのつくり方のレシピは同じでホップの種類だけを変えてビールをつくっているブルワリーはあったりすると思うんですが、そこまでキャラクターが違うと、酵母違いとかも面白そうですね。今はまだ、順次それぞれのビールをリリースしていますが、飲み比べセットとかで飲み比べするのも面白そう。

金澤 やりたいんですよね~、それ。ゆくゆく、一つ一つの花酵母をもっと使いこなして、たくさんの種類の酵母からビールをリリースできるようになったら、酵母違いの飲み比べセットを一気に出したいです。

オートクレーブ(滅菌のための圧力釜)。実験室のすべての機器がミニマムサイズ。でも一連の菌の操作に必要な道具はすべて整っている

ーー酵母って原料として書いてないので、目に見えないし、あまり一般的にホップよりも消費者の認識が薄いところもあるのかなと思うのですが、実際にビールをつくるなら欠かせないもので、酵母が違うことでビールづくりの工程もかなり違いが出てくるなんてこともあると思うのですが。レシピを変えずに酵母だけかえるのって、できそうですかね?

金澤 私は農大花酵母に関しては、発酵温度を調整する程度でいけるんじゃないかなと思うんですけどね。その酵母が一番よく働いてくれる発酵温度を調整してあげることで、基本的には他は同じレシピで。それできたら最高ですよね。

出身校(東京農大の醸造家学科)では、大学三年生のときに日本酒の蔵に実習に行くんですよね。私が行った蔵元は、茨城県にあって花酵母研究会で「東の花酵母蔵」と呼ばれてて。たくさんの種類の花酵母を使っている蔵元さんなのですが、サンプル瓶みたいなサイズで 10 種類くらいの花酵母違いの飲み比べセットを日本酒でつくってるんです。ゆくゆくビールでそんなんできたらいいな~!!!と思ってて。絶対楽しいじゃないですか! ずらーっとならべて飲み比べとかも。

追い求めるジャパニーズスタイルの姿

ーーそれ、ヤバイですね! めちゃめちゃ面白い。 日本のクラフトビール、日本のスタイルってなんだ? みたいなこと考えているブルワーっていっぱいいると思うんですけど、花酵母は”らしさ”というところでの一つの答えになりうるんじゃないか、と思ったり。

金澤 私が最終的に花酵母でしたいなと思っているのはまさにそこで、ベルジャンスタイルとかアメリカンスタイルとか、ジャーマンスタイルとかってそれぞれの国の名前がスタイルのはじめについているスタイル名ってありますよね? あれはそれぞれの国で使われてきている酵母を使ってつくるというところがあると思うんですが、日本の酵母でジャパニーズスタイル◯◯みたいな、そんなスタイルの確立だって夢ではないかもしれない。

私が花酵母をもっと使い込んで、これは他の海外の酵母にない特性を持っていて、しかもハンドリング(醸造上の扱い)もしやすくて、これならみなさんに自信もっておすすめできるというのを、伊勢角だけじゃなく他の日本のブルワーさんに使ってもらってそれがゆくゆくジャパニーズスタイルとして認められるようになったらそれはすごいなというのはありますね。何年かかるかわかりませんけど(笑)。

編集後記

いかがでしたか?

たっぷりと金澤さんの「菌」の世界、お楽しみいただけましたでしょうか?

金澤さんの大きな大きな夢がどんな風に実現されていくのか、楽しみでならなくなったのではないでしょうか。冒頭の伊勢角屋麦酒さんの紹介で”日本で有数の小さくて強いブルワリー”と表現しましたが、工場の規模や従業員数など、ブルワリーの規模としてはクラフトビールメーカーとしても大規模ではない同社が酵母などの微生物を扱うことができる金澤さんをブルワーとして迎え入れ、小さいながらも実験設備を整えて研究にも力を入れているその社風に”小さくて強いブルワリー”との説明に至った理由です。ホップの種類による様々なビールづくりがアメリカをはじめ一大ムーブメントとなり、希少ホップの需要が高まりすぎている今、一部ではホップだけに頼らないビールづくりに注目が集まっています。日本における金澤さんの挑戦もまだまだ始まったばかり。伊勢角屋麦酒では、先日、 World Beer Cup で「はなきんシリーズ」ではない別の「Golden Dragon」というビールが銅賞を受賞していますが、金澤さんはじめ伊勢角屋麦酒の技術力は世界に評価されています。ジャパニーズスタイルの「はなきんシリーズ」が世界に認められる日もそう遠くはなさそうです。

文:瀬尾裕樹子